できそこないの男たち / 福岡伸一

2024年10月10日木曜日

ノンフィクション

t f B! P L

分子生物学を専門とする大学教授の著者が、生物の進化の過程で生まれた性別(特に男性)とその役割を、遺伝子を切り口として解説してくれる本です。

「生物と無生物のあいだ」を記した著者が、SRY遺伝子(哺乳類が持つ、性別を雄に決定するY染色体上の遺伝子, Sex-determining Region Y)の発見をめぐる研究者間の競争と、遺伝子学的な視点で見た男性の役割や女性との関係を一般の読者向けに易しく説明します。
私が興味を持った本書の内容の一部をご紹介します。

【SRY遺伝子】

  • 通常は卵子(22本+X染色体)が、Y染色体を持つ精子(22本+Y染色体)と受精すれば男性が、X染色体を持つ精子(22本+X染色体)と受精すれば女性が誕生するが、まれに精子の染色体編集時に乱丁が発生するケースがある。
  • 46本の染色体が2分されて2つの精子に振り分けられる際、たがいに対応する第1から第22染色体が振り分けられたのち、XとYも振り分けられる。このとき、Y染色体上にあったSRY遺伝子が、たまたまX染色体の中や、X染色体が振り分けられる方の精子の第1から第22染色体のどこかに紛れ込むことがある。
  • SRY遺伝子はY染色体以外の場所にあっても情報発信することができるので、SRY遺伝子が23本の染色体のどこかにあれば、性染色体がXXであっても外形的には睾丸とペニスを持つ個体となる。逆に、SRY遺伝子を持っていなければたとえY染色体を持っていても女性の体になる。
  • その結果、XXの性染色体を持つ男性や、XYの性染色体を持つ女性が生まれることになり、これらは両性具有と呼ばれる。
  • 生命の基本仕様は女性であり、受精後約7週間目までは染色体の型に関係なく全ての胎児が女性の体を形成していく。
  • 約7週目に達した受精卵では、ある特別なタンパク質が作られ、それがSRY遺伝子に結合すると、基本仕様から外れて男性としてのカスタマイズが始動する。
  • 膣を形成する必要がなくなった割れ目は、男性としてのカスタマイズによって閉じ合わされ、俗に「蟻の門渡り」と呼ばれる縫い跡が残る。

【オスの誕生】

  • 生命が誕生して最初の10億年は、母が自分と同じ遺伝子を持った娘を生む単為生殖のみが行われた。
  • 単為生殖は効率的である反面、2つの母の遺伝的特徴を併せ持った新しい形質を生み出せないため、環境が大きく変化するときに生き残る確率が低いという問題があった。
  • 大気中の酸素が徐々に増え、他の元素を酸化するようになり、地球環境に大きな転機がおとずれたのが、生命誕生から10億年経った頃だった。メスたちはこの時初めて、オスを必要とすることになった。
  • メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜をときどき橋渡しする、細い横糸に過ぎない。

【男性の弱さ】

  • 死因別死亡率を見ると、どの原因でも男性が際立って多く死亡している。男性は、がんになりやすく感染症にもかかりやすい。そして寿命が短い
  • 男性は生涯のほぼ全てにわたって、全身を高濃度の男性ホルモン「テストステロン」にさらされ続ける。このテストステロンが免疫系を傷つけている可能性があると、指摘されている。
  • Y染色体という貧乏くじを引いたばかりに、遺伝子の使い走り役にカスタマイズされ、そのプロセスによって負荷がかかり、男性の生物学的仕様に不具合が生じたのである。

【男性の偉業】

  • アジア16地域の男性のY染色体を分析すると、民族や地域に関係なく約8%が同じ遺伝子多型性を持っており、そのY染色体が出現した時期と分布がモンゴル帝国の勃興と領土とに一致し、領土の外の地域ではほとんど見つからないことから、そのY染色体はチンギス・ハーンに由来すると考えられている。
  • 権力者のY染色体は全く稀有なものではなく、むしろその権力が思うままに行使され続けたのであれば、最もありふれたY染色体になりうる。
  • 男たちが成し遂げた最大の偉業は、モンゴル帝国の完成でもなければ万世一系の皇統維持でもない。母の遺伝子を別の娘のもとに運び、混ぜ合わせることだったのだ。

男性の役割と弱さについて興味をお持ちの方に、おススメします。

サントリー学芸賞受賞作
『生物と無生物のあいだ』を経て辿り着いた意欲作。
<女と男>をめぐる、スリリングな生命ドラマ

◎ 内容紹介
地球が誕生したのが46億年前。そこから最初の生命が発生するまでにおよそ10億年が経過した。
そして生命が現れてからさらに10億年、この間、生物の性は単一で、すべてがメスだった。
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
家事・育児と、遠隔地で一人暮らしをする80歳代の母の健康状態にも目を配りつつ生活しています。
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