バカと無知  / 橘玲

2024年9月7日土曜日

ノンフィクション

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作家の橘玲氏が、愚かで複雑な人の心理を旧石器時代の人の進化の過程から説明しようとする本です。

『言ってはいけない』から6年、作家の橘玲氏が、数多くの研究や実験から導き出された人の不都合な本質暴きその理由となる仮説を説明する、2022年発行の本です。

私が興味を持った著者の説明と主張の一部を紹介します。

【被害意識と加害意識】

  • アメリカの調査では、従業員の約1/3がハラスメントの被害経験があると回答したが、同じ調査でハラスメントの加害者になったことがあると回答したのはわずか0.05%だった。
  • 脳は、被害を過大評価し、加害を過小評価する。被害の記憶は(次に同じ被害に遭わないために)重要だが、加害の記憶は価値が無いからである。

【共同体と自分】

  • 生存のためには他者と協働しなければならないが、生殖のためには他者を押しのけなければならない。これが数十万年前から人類が直面してきた矛盾である。
  • 小集団で暮らす旧石器時代の人は、目立ちすぎると反感を買って集団から放逐され、目立たないと性愛のパートナーが得られず子孫を残せないことから、「目立たずに目立つ」「自分についての噂を気にしつつ、他人についての噂を流す」という高度な能力が発達した。
  • 私たちはみな、周囲に同調しながら自分を目立たせるため、自尊心が低く(同調する)かつ高く(競争する)なるよう複雑に設計されている。

【キャンセルカルチャー】

  • 「リベラル」と呼ばれる、自分らしく自由に生きたいという価値観は、1960年代末の米国西海岸で生まれ、瞬く間に地球上を覆い尽くした。
  • 「私が自由に生きる」なら、「あなたが自由に生きる」権利も保障しなければならないので、人の属性による差別は許されなくなった。
  • 差別してはならないという絶対的な正義が決まったのは良いことだが、その一方で、有名人の過去の正義に反する言動を見つけ出して、その地位からのキャンセル(辞任)を求める「キャンセルカルチャー」が問題になっている。
  • 徹底的に社会的な動物である人間は、不正を行ったと感じる相手に制裁を加えると脳の報酬系が刺激されて快感を得られるよう設計されており、特に自分より上位の者に制裁を加えて引きずり下ろすことに人はとてつもなく大きな快楽を感じる。

【自分の評価】

  • バカの問題は、自分がバカであることに気付いていないことだ。バカは原理的に自分がバカだと知ることはできない。私も、そしてあなたも。
  • 認知能力の低い者は自分を過大評価する。これは、共同体の中で能力が低いことを知られて地位が低くなるのを防ぐためではないか。
  • 逆に、認知能力の高い者は自分を過小評価する。これは、優れた能力があることを周囲に知られて権力者によって排除されるのを防ぐためではないか。
  • →上記2つは、自分を過小評価する者はこのままではいけないと感じて努力して能力を高め、自分を過大評価する者は現状に満足して努力しないから能力が低いというだけのことではないか、と私は思うのですがどうでしょう?/by mermaid
  • 人は数百万年かけて、徹底的に社会的な動物として進化してきた。誰もが知り合いという共同体の中で生き延びるには、他者の評価に敏感でなければならない。

【ジェンダー・ステレオタイプの真偽】

  • 「ユダの裏切りでイエスが処刑された」とされるが、イエスはユダヤ教の改革派で、本人はもちろん他の使徒達も全員ユダヤ人だった。だからユダヤ人に対するキリスト教社会の偏見は明らかに間違っている
  • 「男は女より暴力的だ」というと偏見に聞こえるが、国や文化の違いによらずあらゆる社会で殺人犯は圧倒的に男が多い。これは筋肉や骨格を発達させ、性愛への関心を高め、冒険や競争を好むようにさせるテストステロンという性ホルモンの分泌量が、男性は女性の60~100倍多いことで合理的に説明できる。つまり「偏見」ではなく生得的な性差が「常識」になっただけではないか。
  • ジェンダー・ステレオタイプの真偽を科学的に論じると、上記「イエス」のように根拠のない「偏見」と言い切れるケースは良いが、「テストステロン」のように「偏見」とは言い切れず厄介なことになるケースがあるので、「ジェンダー・ステレオタイプが真実かどうかは問題にしない」ことが社会心理学の暗黙のルールとなっている。

【アメリカ人の特殊性】

  • 1980年代のアメリカでは、退行睡眠により子供の頃の記憶にアクセスし、親からの性的虐待等のトラウマ体験を蘇らせる精神療法が流行し、これによって多くの親が冤罪により投獄された。
  • このような退行睡眠による冤罪事件が、日本やヨーロッパでは起きず、アメリカだけで多発した理由として「アメリカ人は妄想的な人間が集まって作った国だから」という説が有力である。
  • 命がけで海を渡ってアメリカ大陸に渡ったのは、決して平均的な欧州人ではなく、何もかも捨てて新天地に移住した「夢と冒険」に生きる人達だから、その子孫も同様の傾向が強いという説である。
  • 双極性障害(躁うつ病)の有病率は世界全体で2.4%だが、アメリカ国民は4.4%であり世界で最も高い。日本人は0.7%で世界でも極めて低い。
  • これは、アメリカは妄想により熱狂しやすい「軽躁社会」で、日本は自殺率の高い「抑うつ社会」であることと関係しているのではないか。

【脳の記憶と記憶の消去】

  • 脳には1280億のニューロンがあり、500兆以上のニューロン同士の結合を形成しているが、それ以外に記憶を保存しておくメモリーは無い。
  • 記憶とは、ニューロン間のつながりやすさとつながりにくさの組み合わせであり、そのニューロン間のネットワークのある状態が、特定の記憶を意識させると考えるほかない。
  • 連想を繰り返してニューロンの結合が活性化されると、その場所で「カルパイン(カルシウム依存性プロテアーゼ)」が作られ、カルパインがニューロンの結合を強化する。
  • ニューロンの結合により記憶が再生する瞬間に、薬物によってカルパインの生成を阻害すると、記憶は再生できなくなる。
  • 将来はカルパインの生成阻害により、トラウマとなった過去の記憶を消すことができるようになるかもしれない。

人の心や脳の裏側、健全な社会の負の側面を掘り下げたい方におススメします。

正義のウラに潜む快感、善意の名を借りた他人へのマウンティング、差別、偏見、記憶……人間というのは、ものすごくやっかいな存在だ。
しかし、希望がないわけではない。
一人でも多くの人が人間の本性、すなわち自分の内なる「バカと無知」に気づき、多少なりとも言動に注意を払うようになれば、もう少し生きやすい世の中になるはずだ。
科学的知見から、「きれいごと社会」の残酷すぎる真実を解き明かす最新作。

「きれいごと」だけでは生きていけない
『言ってはいけない』から6年、「人間について、知りたくないけれど、知っておくべきこと」

「芸能人と正義に関するニュース」がどうして人気コンテンツになるのか?
キャンセルカルチャーが心地よさをもたらすのはなぜか?
バカと利口がじっくり向き合うことで生まれる悲劇とは?
「きれいごと」ばかりがはびこる現代社会の「残酷な真実」に光を当てる決定版。
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
家事・育児と、遠隔地で一人暮らしをする80歳代の母の健康状態にも目を配りつつ生活しています。
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