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ゲノム編集技術「CRISPR-cas9」を開発し、2020年ノーベル化学賞を受賞した分子生物学者のジェニファー・ダウドナ(カリフォルニア大学バークレー校教授)を中心とする研究開発の物語です。
【上巻】
細菌のDNAからCRISPRと言われる繰り返し配列が発見され、それを生物のゲノム編集に利用する技術として確立するまでの研究開発の経緯が語られます。
私の印象に残った著者の解説と主張の一部をご紹介します。
- ”CRISPR”は、"clustered, regularly interspaced short palindromic repeat"(クラスター化され、規則的に間隔が空いた短い回文構造の繰り返し)の略。
- ”cas”は、”CRISPR associated ”(CRISPR関連)の略でCRISPR関連酵素*を意味する。(*酵素はタンパク質の一種なので”CRISPR associated proteins”とも表記)
- 1986年に大阪大学の石野良純氏は、大腸菌DNAの中に29塩基対からなる反復配列が一定の間隔をおいて5回繰り返し現れることを発見したが、それが何を意味するかは不明だった。
- 2003年にスペインのフランシスコ・モヒカは、反復するCRISPRの間にあるDNA配列(スペーサー)が、大腸菌を攻撃するウィルスのDNA配列と一致することを発見。
- 更にモヒカは、新しいウイルスが襲ってきた後、生き残った細菌はそのウイルスのDNAの一部を自身のDNAに取り込み、子孫がそのウイルスに対する免疫を持てるようにしていることに気づく。この時彼は、感動のあまり泣きそうになったのだとか。
- 約30億年前から、細菌はウイルスに感染されないよう防御策を編み出し、ウイルスは細菌の防御を崩す方法を探し、互いに進化し続けてきた結果、このような仕組みができたと考えられている。
- クリスパーRNA(crRNA)は、過去に攻撃してきたウイルスの遺伝子コードを含む短いRNA断片。そのウイルスが再び侵入しようとすると、crRNAはガイドとなってcas酵素を誘導し、そこでcas酵素はウイルスの特定の位置の塩基配列を切断するという仕組み。
- ダウドナとシャルパンティエの共同チームは、CRISPR-cas9のもう一つの構成要素であるtracerRNAの役割を解明する。tracerRNAがcrRNAの生成を促進する役割を持つことは既にシャルパンティエが解明していたが、共同チームはそれに加えて、crRNAとcas9酵素が標的DNAの適切な場所をつかめるよう「足場」になる役割を担っていることを発見する。
- 次にダウドナとシャルパンティエの共同チームは、crRNAとtracerRNAを結合させても機能することを発見し、これらを一体化させたシングルガイドRNAを作成する。このアイデアにたどり着いた瞬間の様子をダウドナは、「ゾクゾクして鳥肌が立った」と述懐する。
- ダウドナとシャルパンティエがこれらの成果を記した論文は2012年6月にサイエンス誌に受理される。
- ダウドナは、CRISPR-cas9の構成要素と作用メカニズムを解明した後に、それをヒト細胞の核に導入する研究に取り組む。
- 他方、米国ブロード研究所でゲノム編集の研究をしていたフェン・チャンは、CRISPRを使えばそれ以前のツールよりもずっと効率的にゲノム編集ができることに気づき、同じくCRISPR-cas9システムのヒトゲノムへの適用を試みる。
- この革新的なCRISPR-cas9は、ヒトへの適用に向けた熾烈な開発競争とともに、泥沼の特許紛争にも発展する。
【下巻】
CRISPRによるゲノム編集技術のヒトへの応用と、突如発生したCovid-19パンデミックに対するCRISPR研究者達の対応が、臨場感を持って語られます。
私の印象に残った著者の解説と主張の一部をご紹介します。
- 1960年代に生物のDNAをカット&ペーストして異なる生物に組み込む技術が生まれると、ヒトへの応用に向けた期待が高まり、将来はヒトの遺伝子を制御して遺伝子異常による先天性疾患を積極的に予防するべきだという意見が研究者から表明される。「運任せで子供を産むのは無責任である」と。
- トロント大学の学生が2012年末頃、細菌のCRISPRシステムを生き延びたウィルスが短い配列で細菌のCRISPRシステムを無効化して細菌のDNAに潜入することを見出し、2016年にはCRISPR-cas9を無効化する抗CRISPRを特定。
- この抗CRISPRにより、CRISPR-cas9によるゲノム編集を制御又は停止できるので、もしテロリスト等がCRISPRを使ったゲノム編集を悪用した場合には対抗手段になり得ると考えられている。
- 2015年、NIH所長でキリスト教を信仰するフランシス・コリンズは「進化は38.5億年かけてヒトゲノムの最適化に取り組んできた。ヒトゲノムをいじくっている少人数の集団が、意図しない結果を招くことなくうまくやれると、私たちは本当に思っているのだろうか。」と懸念を表明。
- 2017年、中国の研究者ジェンクイは、HIVに感染しないようCRISPR-cas9で受精卵のゲノム編集を行って着床させる実験を行う。その結果、ゲノム編集された人(赤ちゃん)が誕生し、世界に衝撃を与える。
- これに対しダウドナらは、安全性が検証されていない現段階でのこのジェンクイの行為を強く非難しながらも、国による禁止や一時停止(モラトリアム)を招かないよう表現に配慮し、この技術の安全面のリスクが解決されればヒトの生殖細胞系列のゲノム編集は容認される可能性があるという主旨の前向きな声明を発表。
- 2019年、着床前診断を利用して赤ちゃんを設計するサービスが、米国のスタートアップ企業により開始される。
- 2019年、遺伝子の異常による疾患(鎌状赤血球貧血症)に対してCRISPR-cas9を用いた治療が試験的に行われ成功。2020年初頭には、CRISPR-cas9を利用する臨床試験が20種以上行われている。
- 2020年初頭から米国でもcovid-19の感染が拡大し、ダウドナらは研究室の壁や国境を越えて研究者間で協力し、CRISPRを使った新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出技術を開発。
ヒトのゲノム編集については、安全性や倫理の観点から今後もその是非が議論されていくことになるでしょう。
遺伝子異常による病気を予防することは可とし、身体能力の強化をすることは不可とする、といってもその境界を定義することは難しく、更に強化を禁止することはもっと難しいだろうと著者は述べます。
自らの遺伝子の未来を設計する能力を得た人類は、それによってより幸福になる利用方法を確立できるのでしょうか?
ライフサイエンス、生命倫理、そして人類の未来に興味をお持ちの全ての方に、おススメします。
遺伝コードを支配し、コロナも征服。
ゲノム編集技術クリスパー・キャス9を開発しノーベル賞受賞し、人類史を塗り替えた女性科学者ジェニファー・ダウドナが主人公。
IT革命を超える衝撃!
今世紀最大のイノベーションである「生命科学の革命」の全貌を描き尽くした超弩級のノンフィクション。
人類の未来を左右するゲノム編集技術クリスパーは、いかにして誕生したか。
ノーベル賞科学者ジェニファー・ダウドナの「自然に対する純粋な好奇心」が、その原動力となった。
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(amazonより抜粋して引用)
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