ノモンハンの夏 / 半藤一利

2023年11月26日日曜日

ノンフィクション

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1939年、満洲国とモンゴル人民共和国(外蒙古)の間の国境線を巡り、それぞれの背後に付く日本とソ連が武力衝突した「ノモンハン事件」を、作家・半藤一利氏が綿密に検証し史実に則して描いたドキュメンタリーです。



1937年に始まった日中戦争は、英・米による中華民国への支援により終息の目途が立たず、事態打開のために日独伊の三国同盟を結ぶべきであると、陸軍は強硬に主張します。一方、海軍などは、三国同盟により英・仏・米との対立が激化することを懸念し慎重論を唱えます。両者の意見がぶつかり、政府は結論が出せない状況が続いていました。


大日本帝国憲法では、「天皇は陸海軍を統帥す」と定められています。つまり、軍隊の行動を指揮・統率する権力は政府(内閣や議会)の関与し得ない独立のものであり、天皇に直隷する陸海軍当局が天皇を補佐するものとされていたのです。
他方、軍の行動以外については、内閣の意見が一致した国策であれば、たとえその意に反しようが天皇は「No」とは言わないのが憲法上のしきたりでした。


陸軍の中枢である参謀本部(三宅坂上)と、その指揮下にあって満州での軍事行動を担う関東軍の関係性がノモンハン事件に致命的な悪影響を及ぼすさまが描かれます。
英仏と対立するドイツ、そのどちらにつくか世界中が注目するソ連の動きなど世界の情勢を踏まえて関東軍の行動を自重させようとする参謀本部に対し、積極果敢に目の前の敵(外蒙古とソ連軍)を攻撃することが使命と信じる関東軍激しく反発します。
著者は、関東軍に対して厳しく命令を徹底させない参謀本部の曖昧な態度を激しく批判します。
結局、関東軍は参謀本部の意に反して外蒙古の領土に攻め込み、ソ連軍との激しい戦闘を続けます。
天皇に対しては巧妙な説明で事後承諾を得るという、統帥権を軽視した関東軍の行動は、陸軍の暴走の始まりを感じさせます。国境を侵犯しソ連軍に攻撃を仕掛ける行動は日本国民に支持されると信じ、それは戦争不拡大を唱える天皇の判断よりも正しいとでも言いたげな、関東軍参謀の思い上がりが透けて見えます。
関東軍がそこまで強く望んで戦闘を開始した割には、現状把握や作戦計画はお粗末であったことを著者は徹底的に批判します。
敵の戦力を正確に把握しようともせず、故に万が一の際の対策を用意していなかったことは、渡河した兵士が2日分の食料しか携帯していないこと、大部隊が渡河するための橋が間に合わせの1本のみであったこと、弾薬や水の補給の方策が何ら打たれていなかったことから明らかである、と。
戦場で戦う将兵が必勝の念を持って敵を飲んでかかるのはよいが、作戦を立てる参謀や全軍を指揮する師団長までが敵を弱いと飲んでかかるのは危険この上ないと、関東軍上層部の傲慢ぶりと無能ぶりに著者は激しく憤ります。


結局このノモンハン事件では日本側に1万8000人とも言われる多くの犠牲者が出ます。
敗因は関東軍参謀の無計画な暴走それを止めなかった参謀本部にあるわけですが、戦闘失敗の責任は、しばしば転勤という形で解決を見るのがしきたりであり、特に積極果敢な行動による失敗は人事当局はそれを大目に見るのを常としたことから、責任追及は極めて甘いものとなったそうです。
また、陸軍中央は、事件後に大規模な「ノモンハン事件研究委員会」を組織して、失敗を今後にどう活かすかを研究しましたが、その結論はどうみても落第点を付けるしかないと著者は断じます。「要はほとんど学ばなかったのである。そして太平洋戦争で同じ過ちを繰り返した」と。


なんとも残念で悲しい、そして悔しくて情けない日本の歴史の一コマですが、この本を読んでノモンハン事件を知ることによって、失敗に学び将来に役立てなければと考えずにはいられません。

エリートが招いた悲劇!
参謀本部作戦課、そして関東軍作戦課の罪と罰は誰が背負ったのか?
このエリート集団が己を見失ったとき、満蒙国境での悲劇が始まった。司馬遼太郎氏が最後に取り組もうとして果せなかったテーマを、共に取材した著者が、モスクワのスターリン、ベルリンのヒトラーの野望、中国の動静を交えて雄壮に描き、混迷の時代に警鐘を鳴らした傑作。
山本七平賞受賞作。
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
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