知的財産法判例教室グローバル版 米欧中韓 / 正林真之(監修)

2026年4月19日日曜日

ノンフィクション

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米国・欧州・中国・韓国の主要な知的財産判例を横断的に学べる、国際知財実務のための体系的ケースブック(2016年発行)です。

特許・商標・意匠・著作権・不正競争といった主要分野ごとに、各国で実務上重要とされる判例を精選し、争点、判断枠組み、各国制度の特徴、実務への示唆を簡潔に整理しています。
国や地域によって異なる法制度・審査基準・裁判所の思考様式を比較しながら、グローバル企業が直面する典型的な紛争類型を理解できる構成になっています。

私の印象に残った事項と、本書発行後の動き(斜体文字)を勝手ながら私が補足し、以下にご紹介します。

☆米国特許法101条(特許保護適格性)に関する判例

【Bilski判決】

  • 2010年6月のBilski判決で米国最高裁は、ビジネス方法発明の特許保護適格性の判断に、機械/変換テスト(Machine-or-Transformation Test)は有益かつ重要な手掛かりになると認めたが、特許保護適格性判断の唯一の基準とすることについては否定し、本発明が抽象的アイデア(abstract idea)にすぎないことを理由に、特許保護適格性を有さないと判断した。
  • 機械/変換テストとは、クレームされた方法が、(1)特定の機械又は装置に関係している場合、又は、(2)特定の物(article)を異なる状態(state)又は異なる物(thing)に変換する(transform)場合に、 特許保護適格性を有する(patent eligible)と判断する基準である。
  • Bilski判決以後、 「抽象的アイデアではないか」という観点での審査が厳格化されたが、審査基準があいまいで、予測可能性が低いという問題が残った。

【 Alice判決】

  • 2014年6月のAlice事件の米国最高裁判決では、過去のMayo事件で提示された次の2つのステップを用いて本特許の特許保護適格性を判断した。(1)クレームが特許保護適格性を有さない概念(patent-ineligible concept)を対象としたものか?(2)その場合、クレームの構成要素を個別及び組み合わせの両方で考慮したときに、クレームの本質(nature)を、特許保護適格性を有する応用(patent-eligible application)に変換(transform)しているか?
  • そして、問題となったクレームは、仲介決済という抽象的アイデア(abstract idea)を対象としたものであり、また、従来から知られている仲介決済の方法を単にコンピュータを用いて処理させただけでは、抽象的アイデアを、特許保護適格性を有する発明に変換するために必要となる発明的概念(inventive concept)を提供するには十分ではないとして、特許保護適格性を否定した。
  • Alice判決後、ソフトウェア・ビジネス方法特許出願の 101条(特許適格性)違反による拒絶が急増した。
  • その後、 USPTOは“特許適格性(§101)判断を明確化するための2019年版審査ガイダンス”を公表し、そこでは「ステップ2A(抽象的アイデアの特定)」と「ステップ2B(実質的な技術的特徴の有無)」に整理し、審査の一貫性と予測可能性を向上させた。

☆米国特許法103条(自明性)に関する判例

【KSR判決】

  • CAFC及びUSPTOは、自明性の判断手法 として長年の間「TSMテスト」を使用している。
  • 「TSMテスト」とは 、 先行技術の組み合わせが自明というためには先行技術どうしを組み合わせてクレーム発明に到達するよう当業者を導く教示 (Teaching)示唆(Suggestion) 動機(Motivation)を示す先行技術が必要であるという考え方である。
  • しかし、2007年のKSR事件の最高裁判決は、「硬直的なTSMテストの適用は誤り」として、TSMテストの柔軟な適用を指示するとともに、その他の「自明性 の論拠」(rationale)を例示した。
  • KSR判決が例示し た「自明性の論拠」は、その後、米国特許審査便覧(MPEP2143)に以下の6項目として反映されている。
  • MPEP2143(自明性に関する 6つの典型的論理付け )】は、①予測可能な組み合わせ(Predictable Combination)②既知の技術的改善の適用(Applying Known Technique)、③単なる置換・代替(Simple Substitution)④設計上の自明な選択(Obvious to Try)、⑤既知要素の併用が当然(Known Work in Combination)⑥技術常識・常識的判断(Common Sense)と示されている。

☆IDSにおける不公正行為に関する判例

【Therasense事件】

  • 従前、 情報開示陳述書(Information Disclosure Statement:IDS )不提出に基づく不公正行為の抗弁が過度になされることで、訴訟進行に悪影響を及ぼしていた。
  • 米国連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit:CAFC)は、不公正行為の成立に必要とされる重要性は、仮定重要性(but-for materiality)、すなわち、仮にその非開示先行技術情報が提出されていたらUSPTOはその特許を認めただろうか、という観点で判断するべきであると判示した。
  • 重要性と並ぶ、不公正行為と認めるためのもう一つの要件である「欺く意図」については、関係者がその情報の存在を知っていたこと、その情報が重要であると知っていたこと、その情報をUSPTOに提出しないと判断したことの3要件を、被疑侵害者が立証して初めて認められる。
  • 2012年より補充審査(Supplemental Examination)制度が新設され、IDS不提出が開示義務違反に該当するか否かをUSPTOに判断させることができるようになり、不公正行為による権利行使不能の事態を回避しやすくなった。

知的財産に関する米欧中韓の重要な判例を概観したい方におススメします。

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また、知財を学ぶ方も非常に限られた時間の中で、一定のレベルにもっていかなければ、実務に携わることすらできません。
しかしながら、海外の主要な判例をまとめた本はなかなか存在しない現状から、本書を発刊致しました。忙しい実務者や知財を学ぶ方の時間の節約ができる一冊。
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
家事・育児と、遠隔地で一人暮らしをする80歳代の母の健康状態にも目を配りつつ生活しています。
医療・医薬に関する一般向けの本、母のための老人施設・介護の本、私が興味を持つ科学、音楽、歴史に関する本、時事解説本、小説など、年間100冊程度読んでいます。
私が実際に読んでぜひ皆様におすすめしたいと思った本やその関連情報をこのブログで発信していきます。

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