ゲノム裁判――ヒト遺伝子は誰のものか / ジョージ・L・コントレラス

2026年5月16日土曜日

ノンフィクション

t f B! P L

米国で争われた“遺伝子特許”をめぐる歴史的訴訟を、関係者100名以上への取材をもとに描いたノンフィクションです。

米国特許法101条(Patent Eligibility=特許適格性)の解釈を軸に、バイオ企業、研究者、患者団体、弁護士、政府関係者らの思惑が複雑に交錯し、科学技術の進歩と人権・公共性の衝突が浮き彫りになります。
訴訟に至る戦略的準備、法廷での比喩を駆使した議論、そして最高裁判断に至る過程が臨場感豊かに描かれ、米国の特許制度や司法のダイナミズムを理解する上でも示唆に富む一冊です。
私の印象に残ったポイントの一部を以下にご紹介します。
  • 1970年代に細菌の細胞に遺伝子を組み込んでインスリンを生産する方法を創生したジェネンテック社が出願し取得できた特許は、人体で自然に作り出されるのと同じインスリン分子そのものではなく、その生産方法だった。
  • 1980年代末から1990年代初めにかけて、ミシガン大学やユタ大学が新たに配列決定したヒト疾患関連遺伝子の特許を取得し始めたとき、従来の低分子医薬品に準じた枠組みの中で、特許適格性が認められた。
  • ミリアド社は1990年代後半に乳がんの原因遺伝子の特許を取得し、その遺伝子検査をしようとする病院、医師、研究者らを訴えるという脅迫的な態度が非難されていた。多くの女性は、ミリアド社の設定した高額な検査代を支払うことができず、保険も適用されなかった。
  • 2009年、AMP(米国分子病理学会)・患者・研究者らが、ミリアド社を提訴する。連邦地裁は、「単離した遺伝子は自然物と本質的に同じ」として特許無効(101条違反)と判断。
  • 2011年、CAFC(連邦巡回控訴裁)は一転してミリアド社を支持。単離DNAは“化学的に断片化されており”自然物とは異なるため特許適格と判断。
  •  2012年、最高裁が差し戻し。直前の Mayo v. Prometheus裁判で、「自然法則+一般的手段では特許不可」という基準を最高裁が判示したことを踏まえ CAFCに再検討を命じる。
  • 2012年、CAFCは、再び「 単離DNAは特許適格」と判断。
  • 2013年、米国最高裁の最終判断単離DNA(genomic DNA)は自然物であり特許不可 とする一方で、cDNA(人工的に作られた相補的DNA)は特許適格と認定。結果として、ミリアドの主要な乳がん原因遺伝子特許は無効化された。
  • Bilski判決(2010年)で「抽象的アイデアはダメ(101条例外の再確認)」、Mayo判決(2012年)で「 自然法則+一般的手段ではダメ(例外分析の厳格化)」、Myriad判決 (2013年)で「自然物はダメ(Mayoの論理を遺伝子に適用)」、Alice判決(2014年)でMayoの枠組みを一般化して2段階テストとして確立、という米国特許法101条(特許適格性)にかかる、少しの時差を持ちつつ並行して進行した大きな訴訟の流れの中に、本書のゲノム裁判は位置していた。

自然物(木)でできた野球のバットに特許適格性はあるのか、培養して作った人工臓器は自然物と全く同じものであるはずだから特許適格性はないのかなどなど、突き詰めると難しい特許適格性について考察したい方におススメします。なお、登場人物が多いので、巻末の「主な登場人物」を参照しながら読むと理解しやすいと思います。


科学技術の発展は、人類にとって歓迎すべきことだが、その利用が重大な人権問題につながる場合もある。嘘発見器による冤罪事件や、警察の捜査に利用されるDNA鑑定技術がはらむ諸問題、遺伝子情報を根拠にした差別的扱いなどが代表的だ。
アメリカ自由人権協会(ACLU)科学顧問のターニャ・シモンチェリは、協会が管轄する、科学と人権が交わるこうした問題に、科学的助言を行う立場にあった。そんな彼女は2005年のある日、同僚にこんな相談をする。「<遺伝子特許>には問題がある」。この小さな相談が、世界中の注目を集める歴史的裁判のはじまりだった――。
「ヒト遺伝子に特許は認められるのか?」
このシンプルな問いに、合衆国最高裁が審判を下したのは2013年。足かけ8年の舞台裏には、がん患者や疾患の遺伝的保因者、研究の自由を求める科学研究者、特許で利益を得るバイオ業界、そして原告・被告双方の訴訟弁護士や特許を承認してきた政府の人間、事件を裁く判事たちのさまざまな思いが交錯するドラマがあった。
一私企業がヒト遺伝子利用を独占する。長く定着していたこの慣行に初めて異を唱えた裁判の、手に汗握るドキュメンタリー。
巻末に事件の法的意義の著者解説を収録。
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
家事・育児と、遠隔地で一人暮らしをする80歳代の母の健康状態にも目を配りつつ生活しています。
医療・医薬に関する一般向けの本、母のための老人施設・介護の本、私が興味を持つ科学、音楽、歴史に関する本、時事解説本、小説など、年間100冊程度読んでいます。
私が実際に読んでぜひ皆様におすすめしたいと思った本やその関連情報をこのブログで発信していきます。

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