失敗の科学 / マシュー・サイド

2025年5月31日土曜日

ノンフィクション

t f B! P L

失敗を認め原因を特定し、その対策を検討して実行することにより再発を防止する。そこにたどり着くまでの困難と、実現するための手法に、オックスフォード大学を首席で卒業した著者が迫ります。

本書では、なぜ本来優秀な人々が頑なに失敗と向き合うのを避け何も学ばないまま無益な行動を繰り返すのかを突き止め、人々が学習のチャンスを得るための手法を検討します。

私の印象に残った、著者の解説と主張の一部を以下にご紹介します。

【失敗が活かされない現象】

  • 2013年「Journal of patient safety」に掲載された論文によると、回避可能な医療過誤による死亡者数は全米で年間40万人にのぼると算出された。これは、心疾患、がんに次いで、米国の死因の第三位となる数値である。
  • 医学そのものが急速に進化する一方、医療現場の環境や医療従事者の姿勢は、「クローズド・ループ現象」によって歩みを止めている。
  • 「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。

【失敗が活かされた航空機事故の対応例】

  • 航空機事故が起きると、航空会社とは独立した調査機関がさまざまな調査をする。その調査結果を民事訴訟で証拠として採用することは法的に禁じられているため、当事者としてもありのままを語りやすい。
  • 他のクルーの進言が機長に聞き入れられなかったために燃料切れにより墜落した航空機事故の教訓から、クルー・リソース・マネジメント(CRM)と呼ばれる訓練が義務化された。CRMでは、「PACE」、すなわち、Probe(確認・探求)、Alert(注意喚起)、Challenge(挑戦)、Emergency(緊急事態)の順に、クルーから機長に対して段階的に意見を主張する方法を学び、機長は部下の主張に耳を傾けることを学ぶ。

【失敗が活かされた医療過誤への対応例】

  • 患者に害を与えるミスを見つけたらいつでも報告するように医療スタッフを奨励したバージニア・メイソン病院では、実際に医療過誤による死亡事故が発生したことを契機に、急激に報告数が増え始めた。
  • 報告したスタッフは、明らかに自分が無謀なことをしたとき以外は、非難されるどころか褒められることに驚いたという。
  • 現在も月に約1000件の報告があるが、個々のミスに対する再発防止策が講じられ、結果としてこの病院では賠償責任保険の掛け金が最大74%減額になった。

【失敗を認めない心理】

  • 1984年、ヒトのDNAの塩基配列の一部に、ちょうど指紋のように人によって異なる「DNA指紋」が発見さた。DNA鑑定により犯罪学に革命が起きた。
  • コロンビア大学の研究によると、全米で1973年~1995年までに下された死刑判決の3件に2件が、憲法上の過誤を犯していたとして後に判決を覆されている
  • 警察や検察は、DNA鑑定の結果が出ても、失敗を認めず、自己正当化に躍起になるのが常であった。自身の主張を正当化するために、検出されたDNAの保持者を犯人以外の配役で登場させ、証拠に基づかない飛躍したストーリーを次々に展開するなど、「認知的不協和」のドミノ倒しが起きることも多い。
  • 「認知的不協和」とは、人が自身の認知とは別の矛盾する認知を抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語である。人はこれを解消するために、矛盾する認知の定義を変更したり、過小評価したり、自身の態度や行動を変更すると考えられている。

【成功/失敗を正しく検証する手法】

  • 医療技術や政策の効果を正確に検証するためには、ランダム化比較試験(RCT)が必要である。そこでは、介入群と対照群をランダムに選び、医療技術や政策を実施した者達(介入群)実施しなかった者達(対照群)とを比較して、効果の有無を検証する。
  • 瀉血(病人から血を抜く治療法)が19世紀まで効果があると信じられていたのは、このRCTが行われなかったからである。また、非行歴のある若者に監獄を見学させ、囚人と対話させる更生プログラム、導入当初は効果絶大と宣伝されたが、RCTによって効果は無いことが検証された。
  • Googleの検索ページに使われる青色は、41種類の青を用いてRCTを実施し、最も広告のクリック率が高かった青色が用いられている。その結果、年間売り上げが2億ドルもアップしたという。

【失敗を糧にして成功するためのアプローチ】

  • 大きなゴールを小さく分解して、一つ一つの小さな改善を積み重ねていく手法をマージナル・ゲインと呼ぶ。小さな改善(マージナル・ゲイン)の積み重ねが大きな飛躍を生む。
  • 責任を追及しすぎればみな口をつぐんでしまい、責任を問わなければ怠慢になる。本当にそうだろうか。管理者が非難に走らず本当に何が起こったのかを丁寧に調べる姿勢を見せていれば、部下は責任追及を恐れず、堂々と事情を説明し意見を言うことができる。裁く側の人間を信頼することができて初めて、人はオープンになり、勤勉にもなるのだから。
  • プロジェクトを実施する前に、プロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜ失敗したのか」をチームで事前検証する「事前検死」という手法が近年注目されている。究極のフェイルファースト手法であり、これにより失敗の原因となりうる事項を洗い出し、事前に潰すことができる。

「失敗」を積極的に「成長・進化」のために活かしたいと考えている方に、おススメします。

なぜ10人に1人が医療ミスの実態は改善されないのか ?
なぜ墜落したパイロットは警告を無視したのか ?
なぜ検察はDNA鑑定で無実でも有罪と言い張るのか ?

オックスフォード大を首席で卒業した異才のジャーナリストが、
医療業界、航空業界、グローバル企業、プロスポーツチーム…
あらゆる業界を横断し、失敗の構造を解き明かす !

■虐待事件で正義感に目覚めた市民が、
役所の失態を責め立てた結果、どうなったか?

■「ミスの報告を処罰しない」航空業界が
多くの事故を未然に防げている理由は?

■撃ち落された戦闘機に着目した天才数学者が、
戦闘機の帰還率向上をもたらした洞察とは?

■治療法が発見されていながらも、
「人類が200年放置し続けた病」があるのはなぜ?
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
家事・育児と、遠隔地で一人暮らしをする80歳代の母の健康状態にも目を配りつつ生活しています。
医療・医薬に関する一般向けの本、母のための老人施設・介護の本、私が興味を持つ科学、音楽、歴史に関する本、時事解説本、小説など、年間100冊程度読んでいます。
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