ワイドレンズ: イノベーションを成功に導くエコシステム戦略 / ロン・アドナー

2025年11月15日土曜日

ノンフィクション

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経営戦略とイノベーション理論の専門家として世界的に知られる著者が、過去の事例に基づき、イノベーション実現を阻む死角について分析します。

著者は、自社の「実行リスク」に加え、パートナー企業の技術やサービスが整っていないことで生じる「コーイノベーション・リスク」、製品が市場に届くまでの流れが途中で切れる「アダプションチェーン・リスク」に注目します。
AmazonのKindleや日産のEVなどの事例を通じて、成功には広い視野(ワイドレンズ)戦略的連携が必要であることを示し、企業は自社の枠を超え、全体の協働体制を築くことで、はじめてイノベーションを実現できるのだと主張します。
私が興味を持った著者の説明と主張の一部をご紹介します。

【イノベーションを妨げるリスク】

  • 「実行リスク」とは、要求された時間内で、仕様を満たすイノベーションを実現できるかどうかのリスク。
  • 「コーイノベーション・リスク」とは、自身のイノベーションの成功が、パートナー企業のイノベーションの成功に依存しているというリスク。
  • 「アダプションチェーン・リスク」とは、エンドユーザーが最終提供価値を評価する前に、エンドユーザーへの価値提供に関わるパートナー企業がイノベーションを受け入れなければ、エンドユーザーに新商品・サービスは届かないというリスク。

【イノベーションの失敗事例と成功事例】

  • ミシュランは、パンクをしても最大時速55マイルで125マイル走行可能な画期的な新タイヤ「PAXシステム」を開発し、2000年頃から販売を開始したが、イノベーションは実現しなかった。PAXシステムを採用する車が少ないうちは、修理工場にとっては新しい修理施設を購入し整備工にトレーニングを受けさせるメリットが小さかったため、修理工場が導入を後回しにした結果、パンクしたタイヤの交換・修理ができる場所が少なすぎたことが原因だった。
  • 1990年のハリウッドでは、セルロイドフィルムからデジタル撮影への移行が期待されていた。アナログの分厚いフィルムの複製、出荷、回収は、映画を製作するスタジオにとって高価で非効率な作業であり、デジタル技術はそれらを不要とするだけでなく、特殊効果、編集、音響等で画期的な進歩を可能にするものだった。しかし、上映する映画館にとっては、デジタルプロジェクター導入等の高いコストに見合うメリットがないため、デジタル化は遅々として進まなかった。そこで、製作スタジオが映画館に対してデジタル化に要するコストとメンテナンス費用を補助する金融面での新たな仕組み(バーチャルプリントフィー)を新設したことにより、映画館のデジタル化は一気に加速した。
  • 2006年にソニーは、新製品の電子書籍端末を350ドルで発売した。明るい画面、長いバッテリー寿命、多くの容量に加えて、検索やコピー&ペーストの機能も備えていたが、普及にはいたらなかった。電子書籍の規格が乱立した中でソニーの規格はその中の一つに過ぎず、また、値付けや著者への印税の支払いなどの経済面と著作権に関する法律面での不透明さから、出版社が躊躇したため、十分な数の書籍が提供されなかったことが一因だった。また、数少ない電子書籍を探して購入し、データをパソコンにダウンロードした後にリーダー端末に転送しなければ読めないという煩雑さも大きな問題だった。
  • そんな中、2007年にアマゾンが電子書籍端末「キンドル」を発売した。ソニー製品より大きく、重く、画質は劣っていた。しかしアマゾンは、発売当初から9万以上(2年以内に33万)のタイトルを揃えシンプルで安価に購入できるワンストップサービスとして顧客に提供した。顧客はパソコンを経由することなく、アマゾンのワイヤレスネットワークから瞬時にキンドルに直接ダウンロードできた。アマゾンは、電子書籍を他のユーザーと共有すること、プリンターに接続すること等をあえて不可能な仕様とし、出版社の権利を保護した。また、アマゾンの電子書籍から得る利益を犠牲にして出版社に補助金を出した。米国で書籍販売の約30%のシェアを占めていたアマゾンが、最もインセンティブの小さい出版社にそこまで配慮したことによって、ようやく 「アダプションチェーン・リスク」 を回避することができ、電子書籍は普及した。

【イノベーターの戦略】

  • 賢いイノベーターは、開発のスピードを調節する。イノベーター自身の実行課題が多い場合は、先行者利益を積極的に求めるのが良い。しかし、補完者のコーイノベーション(PAXシステムの修理技術等、コア技術に関連する周辺技術)の課題が多い場合には、先行者であることのメリットは低いため、準備に徹しローンチを我慢するべきだ。
  • ジョブズはiPodを開発するとき、Macの世界からアップルストアとiTunes音楽管理ソフトウェアという2つの要素を引き継ぎ、関連する重要な要素であったブロードバンドとコンテンツの到来を待った。2001年にはiPodは一気に拡大した。
  • iPhoneの戦略は、iPodのエコシステムとiPodユーザーを明確に引き継ぐとともに、各国で1社の通信事業者とのみ提携することにより、自身のポジションを単なる端末サプライヤーから上位の事業パートナーに変えることだった。これにより、先例がないほど良い条件を携帯通信事業者から獲得した。
イノベーションを理論的に理解したい方におススメします。


全米のMBAプログラムで必読文献

イノベーション論に“イノベーション”を起こす!
なぜ多くの企業の革新的な製品やサービスが成功につながらないのか?
顧客ニーズを踏まえ、素晴らしい商品を開発し、競合に圧倒的差をつけたはずなのに。
その理由は、「自社のイノベーション」に集中するあまり、成功のカギとなる商品を取り巻く「生態系(イノベーション・エコシステム)」を無視していることにある。
本書では、エコシステム全体を見るためのツール=「ワイドレンス」を紹介し、企業の事例を紹介しながらイノベーションと成功とのギャップを明らかにし、企業が「死角」に陥らずに成功に導いていくための方法を探っていく。
登場する事例は、電子書籍をめぐるソニーとアマゾン、日産の電気自動車、iPodとiPhone、3G携帯電話など。
推薦者はジム・コリンズ、ジェフリー・イメルト、ジェフリー・ムーア、クレイトン・クリステンセンなどの錚々たる面々。
本書のベースとなった『ハーバード・ビジネス・レビュー』の論文は全米のMBAプログラムで必読文献とされている。米国の気鋭の経営学者によるイノベーション論のイノベーション。
(amazonより抜粋して引用)

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関東在住で、医療関係の事務に携わっています。
家事・育児と、遠隔地で一人暮らしをする80歳代の母の健康状態にも目を配りつつ生活しています。
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